独身最後の親孝行は、リンスなのです。
たかがリンス
リンスを殺したのはリア充
「看板に偽り」で恐縮ですが、実は宇宙ステーションにはお風呂もシャワーもついていません。
約半年間も長期滞在していて、その間、シャワーも浴びないなんて、なんて汚い!と思った方を責めることはしません。何を隠そう、わたし自身も、宇宙ステーションに来る前には、ちょっとだけですが、そう考えていました。講演の機会などで質問を受けたときには、「キャンプなどで野宿するときと同じように、ウェットティッシュで体を拭くだけ」と説明してきました。
ところが実際に宇宙ステーションで生活してみると、いやいやキャンプどころではなく、衣食住が快適に整っていて、まるでホテルのような暮らしです。
お風呂やシャワーの施設こそありませんが、体を清潔に保つための手段もきちんと整えられています。例えば「衛生タオル」といって、石鹸を含ませて乾燥させたタオルがパックになって用意されてあり、給湯器でお湯を含ませて、ゴシゴシ全身を拭うと、かなりスッキリ爽やかになります。現在軌道上に滞在しているわれわれは、この「タオル」での清拭を「シャワー」と呼んでいます。
この「タオル」とは別に、リンス不要の石鹸(こちらも乾燥パックになっていて、給湯器で水やお湯を加えて使います)もあり、タオルに含ませて顔を拭えば、朝の洗顔ができます。
髪の毛を洗うためのリンス不要のシャンプーも準備されています。シャンプーだけだと泡立ちが悪いので、髪の毛に水をたっぷり含ませておいてから、シャンプーをつけてゴシゴシと洗い立てます。泡や水が飛び散るので、頭の周りを覆うように、タオルを無重力でフワフワ浮かせておくのがコツです。洗い終わったら、櫛ですいてから、汚れと水気はタオルで拭き取ります。地上で髪を洗うのと同じくらいの手間で、水で流したのと変わらないくらい、これまたスッキリ爽やかになります。
ちなみに、髭剃りに関しては電池式の電動髭剃りと、古典的なT字型の髭剃りとを選ぶことができます。わたしが使っているのはT字型カミソリで、水分を多く含んだジェルを使って髭を剃ったあとは、ウェットティッシュでふき取って終わりです。使い終わった後に、水でキレイにすることができないので、使い捨ての替え刃式となっています。
歯磨きは、地上で使っている歯ブラシ・歯磨き粉をそのまま宇宙ステーションで使っています。水で口をすすぐことはせず、歯磨きが終わったらティッシュに吐き出してゴミ箱に捨てています。
宇宙ステーションに滞在を始めて6週間が経ち、髪の毛もだいぶ伸びてきました。髪すきバサミはありませんが、宇宙ステーションにはヘアカットのためのバリカンが常備されています。アタッチメントを変えることで髪の長さを調整することができて、掃除機の吸引口を近くにセットして、刈った髪の毛を吸い取るようにして使っています。
ちょっと話題がズレますが、宇宙で髪が伸びると、重力がないので下には垂れず、四方八方に放射状に広がっていきます。おかげで「まるでライオンのたてがみのようなヘアスタイルだね」と、クルー仲間から言われています。